
手術で入院したら医療費が100万円を超えた…
そんな不安を抱えたことはありませんか?
実は日本には、高額な医療費がかかっても自己負担を一定額に抑えられる「高額療養費制度」という強力なセーフティネットがあります。
しかし2026年8月から、この制度が約10年ぶりに大きく見直されます。
「負担が増える」「年間上限が新設される」など、ニュースで話題になっていますが、具体的に何がどう変わるのか理解できている人はまだ少ないのが現状です。
先に答えをお伝えします。
2026年8月から、月の上限額が所得区分に応じて1,500円~17,700円引き上げられ、新たに「年間上限」(8月~翌年7月)が設けられます。
根拠となる法律は2026年5月29日に成立済みで、金額も厚生労働省が公表しています。
この記事では、高額療養費制度の基本的な仕組みから、2026年8月の2段階改正の詳細まで、図解を交えて分かりやすく解説します。
「自分はいくら負担が増えるのか?」「どう備えればいいのか?」まで徹底的に掘り下げます。
- 高額療養費制度の基本的な仕組みと計算方法
- 現行の所得区分別・自己負担限度額の一覧
- 「世帯合算」「多数回該当」などお得な活用テクニック
- 2026年8月で何がどう変わるのか(月額上限・年間上限新設)
- 2027年8月の所得区分細分化の影響
- 改正後に備えるための具体的な対策
高額療養費制度の基本的な仕組み
高額療養費制度とは、1ヵ月間に同一の医療保険に加入している世帯で支払った医療費が一定の上限額(自己負担限度額)を超えた場合に、超えた分が後から払い戻される制度です。
「高い医療費を払ったら後で戻ってくる」というシンプルな制度ですが、申請方法や計算のルールを理解しておかないと、もらえるはずのお金を取り逃がすことも。
まずは基本から押さえましょう。
なお、高額療養費は日本の公的医療保険に備わった手厚い仕組みのひとつです。ほかにどんな公的保障があるかは、公的保険の種類を解説した記事もあわせてどうぞ。
誰でも使える?対象者と適用条件
公的医療保険(健康保険・国民健康保険・後期高齢者医療制度など)に加入している全ての人が対象です。
会社員・自営業者・年金受給者を問わず、原則として誰でも利用できます。
ただし、以下の費用は対象外となります。
- 保険外診療(先進医療・差額ベッド代など)
- 入院中の食事代・居住費
- 健康診断・予防接種
自己負担限度額の計算方法(70歳未満の現役世代)
自己負担限度額は「所得区分」と「医療費の総額」によって決まります。
現行制度(2026年7月まで)における70歳未満の所得区分と上限額は以下の通りです。

年収500万円(区分ウ)の方が、医療費総額100万円かかった場合
自己負担限度額=80,100円+(1,000,000円-267,000円)×1%
=80,100円+7,330円=87,430円
窓口での3割負担(30万円)に対して、87,430円を超えた212,570円が払い戻されます。
ただし、この金額は2026年7月診療分までのものです。
8月からいくらに変わるのかは、このあとの改正の章でくわしく解説します。
「世帯合算」と「多数回該当」でさらに負担軽減
高額療養費制度には、自己負担を減らすための2つの重要なルールがあります。
【世帯合算】
同一世帯の家族が同じ月に複数の医療機関を受診した場合、各自の自己負担額を合算できます。
70歳未満は、それぞれ21,000円以上の自己負担が合算の条件です。
ただし、同じ公的医療保険に加入していることが前提となります。
【多数回該当】
同一世帯で、当月を含む直近12ヵ月に3ヵ月以上高額療養費の支給を受けた場合、4ヵ月目(4回目)以降の自己負担額がさらに引き下げられます。
例えば、年収約370万~770万円の方なら、通常の上限が約8万円台のところ、多数回該当後は44,400円まで下がります。
この多数回該当の仕組みは、ガンや難病などで長期にわたる治療が必要な方にとって特に効いてきます。
上限額が固定化されるため、負担の上振れリスクが抑えられ、家計管理がしやすくなるメリットがあります。
高額療養費制度の賢い使い方と申請手続き
せっかくの制度も、使い方を知らないと取り損ねます。
2026年現在、窓口で自己負担を事前に上限額まで抑える方法は3つあります。
自分の状況に合った方法を選ぶことが、賢い制度活用の第1歩です。
【1番簡単】マイナ保険証を使う
最もおすすめの方法です。
マイナ保険証(マイナンバーカードを健康保険証として使う仕組み)を対応医療機関の受付端末にかざし、「限度額情報の提供」に同意するだけで、窓口での支払いが自動的に自己負担限度額まで抑えられます。
事前の申請や書類の準備は一切不要です。
出典:厚生労働省「高額療養費制度の見直しについて」令和7年12月25日
事前申請必要なし・書類必要なし。
受付で「同意」を押すだけで完了します。
2026年現在、マイナ保険証に対応している医療機関であれば、これだけで十分です。
【第2選択】手元の「資格確認書」を確認する
マイナ保険証を使わない場合、手元にある「資格確認書」を確認しましょう。
資格確認書とは、マイナ保険証を使用しない方に保険者から発行されるカード型の書類です。
この資格確認書に所得区分(限度額区分)が記載されていれば、それを医療機関に提示するだけで窓口負担を上限額に抑えることができます。
まず手元の資格確認書を確認。
区分の記載があればそのまま提示すればOKです。
記載がない場合は第3選択へ進みましょう。
【第3選択】「限度額適用認定証」を申請する
上記2つがいずれも使えない場合、または対応していない医療機関にかかる場合は、加入している健康保険の窓口(会社員は健保組合・協会けんぽ、自営業者は市区町村の国保窓口)に申請して「限度額適用認定証」を発行してもらいます。
この書類を医療機関に提示することで、窓口での支払いを自己負担限度額までに抑えることができます。
認定証は申請した月の1日から有効です。
月の途中から入院する場合、認定証の取得が遅れるとその月の超過分は後払いの申請が必要になります。
申請は早めに行いましょう。
3つの方法の中で、1番簡単で確実なのはマイナ保険証の活用です。
受付で「同意」を押すだけで手続きが完了するため、書類の準備や事前申請の手間がかかりません。
まだ使ったことがない方は、この機会に試してみてください。
💡 お金の豆知識:払い戻しの申請は「2年」で時効
マイナ保険証や認定証を使わず、いったん窓口で全額を払った場合は、あとから払い戻しを申請できます。ただし請求できる期間は「診療を受けた月の翌月1日から2年」まで。心当たりのある方は、早めに加入先の健康保険窓口に確認しましょう。

マイナ保険証って便利なんだね😊
2026年8月・2027年8月からの制度改正を徹底解説
2026年8月から、高額療養費制度が約10年ぶりに大きく見直されます。
根拠となる「健康保険法等の一部を改正する法律」は、2026年5月29日に成立しました。
金額もすでに厚生労働省が公表しており、ここから先の数字はすべて確定した内容です。
改正は2段階で行われ、それぞれに異なるポイントがあります。
まず、なぜ改正が行われるのかを理解しておきましょう。
高額療養費の総額は高齢化の進展・高額医薬品の普及などにより年々増加しており、現役世代を中心とした保険料負担が増え続けています。
一方で、自己負担限度額は前回の実質的な見直し(2015年前後)から約10年間、ほぼ据え置かれてきました。
※出典:厚生労働省保険局「高額療養費制度について」第1回高額療養費制度の在り方に関する専門委員会(令和7年5月26日)
物価・賃金の上昇という経済環境の変化も踏まえ、今回の見直しが行われます。
当初は2025年8月からの実施が検討されていましたが、がん患者団体をはじめとする多くの患者団体からの強い反対を受け、政府は2025年春に一度引き上げを凍結・見送りを決定しました。
その後、患者団体も加わった専門委員会で計9回の議論が重ねられ、上げ幅を抑えつつ長期療養患者への配慮を盛り込んだ内容で決着しました。
【第1段階】2026年8月:月額上限の引き上げと年間上限の新設
2026年8月からは、現行の5つの所得区分を維持したまま、すべての区分で月額上限が引き上げられます。
あわせて、新しく「年間上限」が設けられます。
70歳未満の方の変更内容を、1枚の表にまとめました。
| 所得区分(年収の目安) | 2026年7月まで | 2026年8月から |
|---|---|---|
| ア:約1,160万円~ | 252,600円+1% | 270,300円+1% (+17,700円) |
| イ:約770万~1,160万円 | 167,400円+1% | 179,100円+1% (+11,700円) |
| ウ:約370万~770万円 | 80,100円+1% | 85,800円+1% (+5,700円) |
| エ:~約370万円 | 57,600円 | 61,500円 (+3,900円) |
| オ:住民税非課税 | 35,400円 | 36,900円 (+1,500円) |
※表の「+1%」は、医療費が一定額を超えた分の1%が上乗せされるという意味です。この「一定額」も8月から変わります(次の注意点を参照)。
最も人数が多い年収約370万~770万円(区分ウ)で見ると、増えるのは月5,700円です。
「思ったより上げ幅が小さい」と感じた方もいるかもしれません。
2025年に一度見送られた経緯があり、上げ幅が抑えられたためです。
見落としやすい注意点:引かれる金額も変わります
区分ウの計算式は「80,100円+(医療費-267,000円)×1%」から「85,800円+(医療費-286,000円)×1%」へ。定額部分だけでなく、差し引く金額も変わる点に注意しましょう。
では、実際にいくら増えるのでしょうか。
記事の前半で計算した年収500万円・医療費100万円のケースを、改正後の式で計算し直してみます。
年収500万円(区分ウ)の方が、医療費総額100万円かかった場合
85,800円+(1,000,000円-286,000円)×1%=92,940円
7月までの87,430円と比べて、5,510円の負担増です。

負担が増えるだけなの?😥
高額療養費の「年間上限」とは?新設で逆に負担が減る人もいます
いいえ、増えるだけではありません。
年間上限とは、1年間(8月~翌年7月)の自己負担の合計にも上限を設ける、今回はじめて導入される仕組みです。
年間上限に達したあとは、その年はそれ以上の自己負担が不要になります(保険者から払い戻されます)。
金額は所得区分ごとに決まっています。
| 所得区分(年収の目安) | 年間上限(8月~翌年7月) |
|---|---|
| ア:約1,160万円~ | 168万円 |
| イ:約770万~1,160万円 | 111万円 |
| ウ:約370万~770万円 | 53万円 |
| エ:~約370万円 | 53万円 (年収~約200万円は41万円) |
| オ:住民税非課税 | 29万円 |
※年収~約200万円(標準報酬月額15万円以下)と確認できた方の41万円は、令和9年8月以降に払い戻されます。
実はこの新設によって、負担が軽くなる人がいます。
これまで割を食っていたのは、毎月あと少しで上限に届かなかった人でした。
上限に達しないと多数回該当のカウントも進まず、負担が延々と積み上がっていたのです。
厚生労働省は、こんな例を挙げています。
年間上限で負担が減る例(区分ウ)
毎月7万~8万円の自己負担が1年続くと、合計76.7万円。年間上限53万円で頭打ちになるため、約23.7万円の負担減になります。
出典:厚生労働省「高額療養費制度の見直しについて(令和8年8月診療分から)」

つまり今回の改正は、「短期で高額な医療費がかかる人はやや負担増、長期で治療が続く人は負担減」という設計です。
ニュースの見出しだけでは「負担増」しか伝わりませんが、実際には両面あるということです。
【第2段階】2027年8月:所得区分の細分化
2027年8月からは、現行の5区分がさらに細分化されます。
これにより、現在は「年収約370万円の方」と「年収約770万円の方」が同じ区分・同じ上限額に分類されていた問題が解消されます。
収入の実態に近い負担になる、というのが狙いです。
例えば新設される「年収約650万~770万円」の区分では、月額上限が110,400円+(医療費-368,000円)×1%になります。
現行の80,100円と比べると、定額部分だけで約3万円の負担増です。
率にすると約38%で、今回の改正で最も影響が大きい層といえます。
出典:厚生労働省「高額療養費制度の見直しについて(令和8年8月診療分から)」
一方で、低所得層には配慮が入っています。
住民税非課税ラインを少し上回る「年収200万円未満」の方は、多数回該当の金額が引き下げられます。
多数回該当はどうなる?長期療養者への影響
多数回該当の仕組みも金額も、2026年8月・2027年8月の改正後そのまま維持されます。
区分ウなら44,400円のまま据え置きです。
長期に治療を続ける方の負担を増やさない、というのが厚生労働省の方針だからです。
出典:厚生労働省「高額療養費制度の見直しについて(令和8年8月診療分から)」
ただし注意点があります。
月額上限が引き上げられることで、これまで毎月「上限に達していた」治療費が、8月からは「上限に届かない」ケースが生じます。
その場合、多数回該当のカウント対象とならず、結果的に年間の負担が増える可能性があります。
とはいえ、そこで効いてくるのが今回新設された年間上限です。
多数回該当から外れても、年間53万円で頭打ちになる(区分ウの場合)ため、青天井にはなりません。
高額療養費制度のよくある質問(FAQ)
2026年8月から高額療養費はいくら上がりますか?
所得区分に応じて、月1,500円~17,700円上がります。
いちばん人数が多い年収約370万~770万円の区分なら、月の上限が80,100円+1%から85,800円+1%へ、5,700円の負担増です。
ただし同時に年間上限(8月~翌年7月)ができるため、治療が長引く方はむしろ負担が減る場合があります。
高額療養費は、申請しないともらえないのですか?
マイナ保険証や限度額適用認定証を使えば、窓口での支払いが最初から上限額までに抑えられます。
使わずに全額を払った場合でも、あとから申請すれば超えた分が払い戻されます。
ただし申請には「2年」の時効があるので、早めの手続きが安心です。
差額ベッド代や食事代も対象になりますか?
いいえ、対象外です。
差額ベッド代(個室代)、入院中の食事代、先進医療の費用、健康診断などは高額療養費の対象になりません。
これらに備えたい場合は、別の準備が必要になります。
高額療養費があるなら、民間の医療保険は不要ですか?
結論、「過剰な加入は見直す価値がある」というのが答えです。
公的保険が手厚いため、医療費そのものは高額療養費でかなりカバーされます。
ただし差額ベッド代や収入の減少には別の備えが要る場合も。保険の見直し方は医療費控除と保険見直しの記事で解説しています。
なお、医療への備えを考えるときは「保険と投資を分ける」ことも大切なポイントです。理由はこちらで解説しています。
親の介護にかかるお金が気になる方は、親の介護はいくら?費用の目安と減らす制度でくわしく解説しています。
医療費を抑える大前提となる「健康」については、健康資産とは?不健康な老後に消える2000万円でくわしく解説しています。
まとめ
本記事では、高額療養費制度の基本的な仕組みから、2026年8月・2027年8月の制度改正まで詳しく解説しました。
最後に重要ポイントを整理します。
- 高額療養費制度は、1か月の医療費が一定額を超えた場合に超過分が払い戻される公的制度で、全公的医療保険加入者が対象
- 「世帯合算」「多数回該当」を活用することで、さらに負担を軽減できる
- 窓口での自己負担を事前に抑えるには、マイナ保険証の活用が最もかんたん。資格確認書の区分記載確認、限度額適用認定証の申請という順で対応を検討しよう
- 2026年8月から月額上限が引き上げられ(区分ごとに1,500円~17,700円)、新たに年間上限(8月~翌年7月)が設けられる。年間上限のおかげで負担が減る人もいる
- 2027年8月からは所得区分がさらに細分化され、年収約650万~770万円の層は月額上限が110,400円+1%に(現行から約38%増)
- 多数回該当の金額(区分ウなら44,400円)は据え置き。月額上限の引き上げで対象外になるケースもあるが、新設の年間上限が歯止めになる
改正で負担が増えるのは一部の区分だけで、多くの人は今までどおりです。自分の区分さえ分かっていれば、必要以上に不安になることはありません。
「自分はどの区分か?」「どれくらい負担が増えるか?」が気になる方は、加入中の健康保険窓口にご相談ください。
医療費の不安をやわらげるには、制度を知ることに加えて「健康そのものを保つ」ことも大きな備えになります。健康とお金の関係は健康寿命と生涯収入の記事もどうぞ。
※本記事の金額は、2026年5月29日に成立した法律にもとづく確定値です(2026年7月時点)。ご自身がどの区分に当たるかは、ご加入の健康保険(協会けんぽ・健保組合・市区町村の国保窓口など)でご確認ください。
参考資料・出典(2026年7月時点)
※本記事では、以下の公的機関の一次情報に基づき作成しています。
退職後にどの健康保険へ入るかで、保険料は大きく変わります。
※本記事は2026年6月時点の一般的な情報提供です。制度や金額は変更される可能性があるため、最新情報は公式サイト等でご確認ください。具体的な手続きや判断については、必要に応じて専門家にご相談ください。
出産にまつわるお金については、次の記事でくわしく解説しています。
市販薬に似た薬の負担増(OTC類似薬)については、次の記事でくわしく解説しています。
医療費だけでなく「働けない間の収入」も気になる方は、次の記事もあわせてどうぞ。
医療費だけでなく、働けなくなったときの収入も公的な制度で支えられます。
障害年金がいくらになるかを、等級別・子どもの人数別にまとめました。
執筆:よ~ちゃん(2級FP技能士)|最終更新:2026年7月17日








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